黄昏時、何処かの橋の上。

    橋の上には君と私の二人きり。


    「お前さん、お前さん。」


    どこか遠く、遠くを険しいまなざしで眺めている君に声をかける。


    「なんでしょうか。」


    先ほどまでの険しいまなざしはどこへやら、なんとも優しい、柔らかい微笑みを浮かべながら振り向く君。

 
    「もう決めたのかい。」


    「何を、ですか。」


    「ゆく先をだよ。」


    すると君は、目をらんらんとさせながらはっきりと答える。

   
    「ええ、もう決めました。」


    「本当かい。」


    「ええ。」

    
    一瞬、その瞳の奥に眠るなにかを垣間見たような気がしたけれど。私は続ける。


    「もう後戻りはできなくなるけれど、それでもいいのかい。」

    
    「ええ。私、信じてますから。この先で必ず、会えると。」


    はっきりとした物の言い方、揺るぎないまなざし、凛とした姿。

    
    迷いがない事は、瞳が物語っていた。
   

 
    「・・・・迷いはないね。」


    「ええ、勿論。」

    
    ――ごおん、ごおおん。


    どこからか遠くの寺の、鐘の音があたりに響き渡る。
    
    まるでそれが合図かのように、鴉が群れを成して巣へと帰ってゆく。

    黄昏色の空も、だんだんと闇色へと変わりつつある。

  

    「それじゃあ私、そろそろ行かないと。」


    「ああ、お気を付けて。」

    
     立ち去り際に、くるっとこちらの方に向かって会釈と礼をする。
    
    踵を返して夕闇に染まる街へと駆けてゆく君の、背中をただただ眺めながら。



     




        一人ぽつんと橋の上で、潸然としてぽろぽろと涙を零す私がいた。












         つれさんロゴ









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